実習名:避難所1泊体験&津波避難タワー見学研修
実施日:令和5年8月26日(土)~27日(日)
実施場所:高知大学医学部 及び 南国市スポーツセンター津波避難タワー
令和5年8月、本プロジェクト初となる3大学合同実習が高知県にて1泊2日で実施されました。これはアクティブラーニングコース災害救急・感染症コースの実習で、高知大学2~3年生6名、和歌山県立医科大学3〜4年生7名、三重大学の1・3生5名が参加。災害時の避難や応急手当などについて共に学び、意見を交わした学生たちに実習の感想について聞いてみました。
参加者座長:西山 謹吾 特任教授(高知大学 危機管理医療学講座)
学生:和歌山県立医科大学3年 山本 有美恵、高知大学2年 橋本 梨鈴、三重大学1年 佐藤 一輝
西山今回の研修では、水害から南海トラフ地震まで様々な災害とその医療について学びました。研修の最初の山場は、南国市スポーツセンタータワーの見学でしたが、皆さんいかがでしたか?
佐藤とてもいい勉強になりました。三重県にも津波避難タワーはありますが、あんなに間近で見学できる機会はありませんでした。
山本和歌山にもありますが、私自身は避難タワーを見たことも入ったこともなかったので、こんな構造なんだと驚きました。説明を市の職員の方がしてくださったのも、とてもわかりやすくてよかったです。
構造などの説明を受けた後、2階の備蓄倉庫や太陽光パネルのある屋上を見学。
西山高知県内に津波避難タワーは現在124基あります(令和5年4月時点)。実際に入ってみて、何か気がついたことはありましたか?
橋本階段が子どもや高齢者も避難しやすいよう小学校の基準で整備されていることは、今回初めて知りました。
山本2階の避難スペースには毛布や水、簡易トイレなどが備蓄されていましたが、鍵が震度5弱以上の揺れで自動開錠する仕組みだと教わり、そこまで考えられているんだと感心しました。
西山避難スペースの中には通信設備もあって、最上階の太陽光発電で無線の電力は賄えるという話でした。いろいろな工夫がなされていますよね。
では、あそこで宿泊するとしたらどうでしょう?
橋本少ししんどそうです。
西山そうですね。津波避難タワーは、あくまで一時的な「避難場所」です。災害時には「避難場所」と「避難所」という2つの言葉があり、「避難所」は避難生活を送るところです。私たちはそれをしっかり使い分けなくてはなりません。
西山災害時に必要となる3つの体験実習はどうでしたか?
佐藤いきなりロープが出てきて、災害医療にロープがどう使えるんだろう?と最初は全くわかりませんでした。
西山ですよね(笑)。でもロープはああやって点滴を吊るすことができたりします。医師になる皆さんは知っていてほしいと思います。
山本教えていただいたやり方は、簡単に輪っかが作れたりほどいたりできて、うまく考えられているなと驚きました。一本のロープでいろんな用途に使えることがわかりました。
西山この体験実習では、高知大学の学生たちが指導を手伝ってくれました。実は高知大学の先端医療学コース災害救急医療研究班に所属する学生は、普段からこういった学びを行っています。三角巾の実習はどうでしたか?
佐藤初めは結び方が全くわからなくて、難しかったです。
山本私も手こずりました。
橋本私は授業で何度かやりましたが、まだ十分にはできません。今回は他大学の皆さんの前で披露するためにかなり練習しましたが、あまり自信はないです。
西山自分ができるだけでなく、それを人に教えられるようになれば、本当に自分のものになったということでしょうね。無線の方はどうでしたか?
佐藤伝達項目がたくさんあって苦戦しましたが、本部との連絡の取り方がわかりました。トランシーバーは初めてだったので、使い方がちょっと難しかったです。
西山スマホは基本1対1ですが、無線は1対多数で連絡ができます。その点で、災害時に無線機を使うのは非常に有効です。距離や遮蔽物があると難しいという面はありますけれどね。
西山先生指導のもと高知大生がお世話役となって、災害時に役立つ技術を練習。
西山三重大学の岸和田先生がやってくださったiPadでの浸水体験はいかがでしたか?
山本目の前の景色に重ねて、浸水がここまで来ているとか漂流物がたくさん流れてきたという3Dで見ることができました。とてもよかったです。
橋本浸水被害や津波の話を聞かせていただいても、リアルにイメージすることはなかなかできなかったので、疑似体験ができてよかったです。自分たちで条件を加えながらこのぐらい沈むんだとか、漂流物が飛んできたらこんなに大変なことになるんだということをみんなで試すことができました。
西山三重大学附属病院では、災害訓練でこのアプリとiPadを使っているそうです。
佐藤三重大学は津波が来たら浸水します。病院の周囲も全部浸かると聞きました。
西山それを訓練で疑似体験していただいて、外来はここまで水に浸かるんだとか、これでは歩くのも難しいねというようなことを知ってもらう。そではとてもいい取り組みだと思います。
カメラを向けた場所に浸水映像を重ねることで、災害をリアルにイメージする。
西山今回、宿泊は避難所で寝泊りするという想定で、高知大学の施設内で非常食の試食や簡易ベッド作りも体験していただきました。
山本非常食はかなり美味しかったです。私は2袋いただきました(笑)。
西山今は非常食も味がよく、火も不要で便利になっています。とはいえそれだけでは物足りないだろうと思い、高知で有名な手羽先からあげも用意しました。
佐藤あれは美味しかったです!(笑)
西山ベッドにはいろいろなタイプのものがありましたよね。
佐藤段ボールベッドが、組み立てが一番大変でした。
橋本実際に被災した状況でこれを作るのは、ちょっと大変かなと感じました。
西山段ボールベッドもいろいろな種類があって、今回は高知県の会社が開発したものを作ってもらいました。実際に自分たちで体験してみるということが大切です。
佐藤アクリルベッドの方が簡単で、持ち運びもしやすかったです。
山本そうですね。パッと開いて、パッとたためました。
西山簡易ベッドはどうでしたか?
橋本近くにいた人と協力して、かなりスムーズに組み立てることができました。
西山簡易ベッドは布張りだし、アクリルベッドよりも寝心地がいいかもしれませんね。実際に寝てみていかがでしたか?
佐藤僕は簡易ベッドで寝ましたが、枕がなかったので起きたら首が少し痛かったです。
西山実際の災害現場にも枕はありません。大抵は自分の着替えなんかを枕にするんですよ。自分の持ち物をうまく使うということですね。
非常食の試食と、簡易ベッド、アクリルベッド、段ボールベッドの組み立てを体験。
西山ところで、今回の研修の中で一番評価が高かったのが就寝前に行った温泉でした(笑)。
全員すごくいい温泉でした~(笑)。
西山それはよかったです(笑)。実際に我々が救護班として災害現場に行く際は、通常は2泊3日、長くても3泊4日です。その間、お風呂は一回も入りません。被災地には水なんてないでしょう?
2011年3月11日、東日本大震災が起こったとき、僕は第3班で3月17日に現地に入りました。翌3月18日に熊本赤十字病院のチームがお風呂を持ってきてくれて、みんなが「お風呂だ、うわ~!」っと喜びました。熊本赤十字は、ディザスターレスキューという特殊医療救護車両を持っていて、実はそこにお風呂が入っているんですね。
その時、最初にお風呂に入っていただいたのは石巻赤十字病院の方々でした。その後に、先に来られていた救護班の皆さんです。彼らはもう一週間お風呂入っていなかったからです。その後、我々も入らせていただきました。
また、西日本の豪雨災害や熊本地震の時は、自衛隊が被災地にお風呂を持ってきてくれました。ただ、自衛隊のお風呂には一つ難点があります。お風呂のまたぎの高さが高くて、高齢の方は入れないのです。自衛隊のお風呂は基本、元気な方のためのものですからね。そこで西日本豪雨災害の時は広島県にお願いして、老健施設のお風呂を開放してもらいました。こういう違いがあることも、皆さんはぜひ知っておいてください。
東日本大震災 被災地の様子
東日本大震災では、全国各地から応援の緊急車両が駆けつけた(石井正先生提供)
西山それでは最後に、研修を終えた感想を教えてください。
橋本災害医療や医学の学びについて、これまでは高知のことしか学ぶ機会がありませんでしたが、今回、和歌山や三重の医学生と交流する中で、地震が来た時その地域ではどんなことが起きるのかとか、他大学ではどんな勉強をしているのかなど情報交換をすることができました。それがすごくよかったです。また、今回は高知を題材に学びましたが、来年以降は三重や和歌山に行って学べるという楽しみが増えました。
佐藤初めての3大学合同実習で、とてもいい横のつながりができました。来年もまたみんなと一緒に学びたいと思っています。
山本和歌山は今回、3~4年生が中心でしたが、高知と三重は1~2年生が多く参加していました。でも、学年は下なのに皆さん私たちよりも災害医療についての知識が豊富で、他大学ではこんなに勉強してるんだという尊敬の気持ちが生まれました。自分ももっとがんばろうと思えるいい機会になったと思います。
西山なるほど。刺激になりましたか?
山本はい、とても!
西山それはよかったです。高知、和歌山、三重、この3県は南海トラフ地震で津波被害の避けられない地域で、その境遇は同じです。おそらくどの県でも様々な防災対策を行っていると思います。そこに我々は医療人としてどのように関わっていくのか、しっかり考えなければなりません。今回の学びを受けて、将来目指す医師像について何か変化などはありましたか?
橋本例えば小児科だから子どもだけを診るというのではなく、毎日の暮らしの中で地域の医療に貢献できる医師になりたいと思うようになりました。災害が起きた時に今回学んだような知識を持った上で行動できる医師、様々な状況が次々と起きる中でそれらに対応できる医師になりたいと思います。
佐藤僕は、いろいろな人とつながって多くの協力を得られるような医師になりたいと思いました。地域の方や他の職種の方など、多様なつながりがあってこそ、災害を乗り越えられると思うので。
西山そうですね。医師だけではどうにもならないですよね。行政の考え方、そして救急隊や消防組織がどのように活動するのか、そういうことも我々は知っておかなければなりません。そういったたくさんの組織の中に我々医療もあるからです。
山本災害が発生した時、私は救急専門ではないからわかりませんとは言えないと思います。だから、通常の授業ではやらない災害・救急の知識を、もっと自分から学んでおいた方がよいと感じました。
西山我々医療者は、被災して怪我をされた方々の要望に少なくとも対応しなければなりません。今回学んだ三角巾やロープワークのように、身近なものでできる応急手当は実はたくさんあります。しかし、それは医学部のカリキュラムとしては勉強しません。だからこのプロジェクトで、知識と実技を交えてやっていこうと思っています。楽しいですよ? 顕微鏡を見るより楽しいです(笑)。だから一緒にやりましょう。多くの学生の皆さんの参加を待っています!